2009 年 5 月 5 日
1000円事件
今年のゴールデンウィークの状況を見て感じたことを、できるだけ生活者の観点から取り上げてみたい。
1000円事件とは、地方の高速道路の通行料金が、土曜、日曜、休日はどこまで行っても1000円であるという、実に愚かな政策のことである。これは政策ではない。誰かが告発してもよいくらいの事件であると私は思う。
何が愚かなのか。
第1に、はなはだ疑問な経済効果である。国は経済対策だというが、高速道路通行料の値下がり分で、多少お土産を買ったところで、消費者の現状はさほど変わらない。財布の紐は緩まない。
そもそも、経済の活性化は何のための政策だろうか。言わずもがな、国民の福利に資するためである。
つい半年前には、労働者の雇用を守れ、などという世論があったし、国もその方向に動くと言ったはずだ。それが、日経ビジネス誌によると、今回の1000円事件で、瀬戸内海のあるフェリー会社では乗客がほぼ半分になってしまい、倒産の危機にあるという。過疎の離島を結ぶ重要な交通手段が、国の政策の犠牲になろうとしている。ここで、また労働者が職を失うことになり、給与も相当に下がるだろう。瀬戸内の島の人々の生活はますます不自由になる。
第2に、道路公団を民営化する政策に逆行することである。
この事件で、国は5000億円の税金を道路会社に支払うという。実質上、体のよい補助金である。これらは、将来へのツケになって国民に帰って来る。今回の事件で一番儲かるのは、かつてその筋の人が天下って、今も実効支配しているサービスエリアの業者だ。
観光地の小さなみやげ物店では、それほど売り上げは増えないという。香川県のうどん店では、混乱を恐れてゴールデンウィーク中はあえて店を閉めるところもあるという。
第3に、これだけの不況の中で、たとえ高速道路が1000円になっても、旅行に行ける人はそれなりの収入のある人でしかないことだ。ましてETC装着車にかぎるとなれば、それなりの車を持っている人のみがトクをするということになる。
国はここでも5000円の補助金を出して、ETC装着を推奨したが、現実問題としてマイカーへの装着率はまだ50%を切っている。この政策が出て、全国のカーショップでのETCの価格は上がっていた。儲けたのは国民ではない。
生活に困窮している母子家庭、父子家庭、老人や障害を持った人を介護している家庭の人にとって、この政策は何の足しにもならない。
第4に、何よりも大切なことは、人々の意識である。
この政策は、明らかに地球温暖化に逆行する。地球環境の悪化を遅らせるために、京都議定書にてCO2削減の公約をした日本にとって、不要不急のマイカーの使用を控えることは、いわば国民の義務である。それが、この政策で国民の意識の中から飛んでしまった。
5月3日、昼過ぎに国道18号線の碓井バイパス付近の国土交通省が設置した電光掲示板に、上信越自動車道の渋滞を知らせる掲示と「渋滞緩和と環境保護のため、お出かけは公共交通機関を使ってください」という表示があった。国のやることの一貫性のなさに、苦笑すると同時にこの国の行く末にさみしさを感じた。
以下は、5月5日、テレビのインタビュー報道から得た一般人の発言情報である。
さいころを振りながらどこへ行くかを決めて(つまり行き当たりばったりで)旅する会社員4人組み。「1000円だから、こんなことしているんですよ」
千葉から名古屋へ向かっていた会社員。「実家へ帰るのですが、12時間かかってまだ浜名湖です。これからは新幹線にします」
千葉から岐阜へ向かう自営業者。「通常なら、岐阜まで4時間あれば行けるのですが、浜名湖ですでに11時間。高速道路料金を倍にしてもいいから、車を減らして欲しいですね」
トラックのプロドライバー。「自家用車だけが1000円で、この混雑。はっきり言って迷惑以外の何ものでもありません」
これらの人の言い分をどのように感じるだろうか。
最後のトラックのプロドライバー以外の人は、皆同罪だ。あとの者は愚策に踊った自己を反省するがよい。
代表
関根健夫( 昭和30年生 )