2010 年 5 月 5 日
お言葉でございますが その2 - 「そこまで言う?」
日常生活をしていると、そこまで言わなくてもという感覚になる話し方がある。間違ってはいないのだけれど気になるのは私だけであろうか。
仕事柄、飛行機に乗る。最近は、受付カウンターでの搭乗手続きが不要な制度が普及している。手荷物検査を直接に受け、そのまま搭乗ゲートに向かうことも多くなった。また、予約をしても実際には搭乗しない人が多いらしく、航空会社があらかじめ座席数以上の予約を受けるらしく、出発直前に搭乗客と座席のチェックをするという。であるからか、機内で出発直前に次のようなアナウンスがよくある。
「○番にお座り予定の○○様、いらっしゃいましたら、客室乗務員にお知らせください。」
この状況においては、○番の座席には人が座っていないわけなのだが、このアナウンスの「いらっしゃいましたら」は余計な一言ではないだろうか。その人が機内にいれば声をかけるだろうし、いなければ当然声はかからないわけだ。
「いらっしゃいましたら」の言葉の裏には“この機内には、いないだろうけれど‥‥‥”という前提を感じるので、念のためにということなのだろうが、「○番にお座り予定の○○様、客室乗務員にお知らせください。」で十分だし、そのほうがスマートだ。もっとも、この言葉を挟まない客室乗務員もいるので、航空会社のマニュアルにある必ず言わなければいけないわけではないようだ。しかし、多くの客室乗務員は自然につかっている。
先日、蕎麦屋に入ってざるそばを食べた。麺を食べ終わり、若い女性店員に「蕎麦湯をいただけますか」と頼んだら、すぐに持ってきてくれた。そのときの一言、
「お熱いので、ご注意ください。」
この場合の「お熱い」の「お」が必要かというと、熱いのは蕎麦湯であるから「お」は不要だが主題はそこではない。問題は「ご注意ください。」だ。高校生のアルバイトとかとも思われる若い女性に言われると、“そこまで言われなくても大丈夫だよ”“蕎麦湯が熱いのは当たり前だろう”と、一言返したくなるのは私の性格が悪いせいか。
これも「蕎麦湯をお持ちしました。」で十分だろう。もっとも、そのときの蕎麦湯は汲み置きしてあったらしく、決して熱くはなかったのが悔しい。
5月の連休や8月のお盆、年末年始などに、商店や公共施設などが数日の間休みになることがある。フロントのカウンターやドアにそのことの張り紙が出ることがあるが、それにも時として次のように書いてある。
「当店は○日から○日まで休業します。お間違いにならないよう、ご注意ください。」
私の大先輩の講師でお亡くなりになったY先生が、「まるでこちらが間違うことを前提としている。失礼な表記だ。親切にという気持ちかもしれないが、傲慢さを感じる。」とおっしゃっていた。
これも「当店は○日から○日まで休業します。」で十分だ。付け加えるなら「勝手でございますが‥‥‥」「○日から営業します」「申し訳ございません」などのほうが、気持ちが伝わりそうだ。
日本語の乱れが指摘されて久しい。実は一見親切な言い回しが、言葉を重ねることでスマートさを殺ぎ、手垢にまみれた言い方になっていることはないだろうか。もう一度言葉や文脈のスマートさを考えたい。
確かに、意味が間違われるよりはいいだろう、という意見もあろう。私も、間違われないようにとつい言い過ぎることが多い。歳を重ねるとともに「言い方がくどくなった」と妻に指摘される。まずは、自分が先に反省しなさい、という考察だったか。皆さんはどう思われるだろうか。
代表
関根健夫( 昭和30年生 )