2010 年 5 月 24 日
お言葉でございますが その3 - 「お名前様?」
この数ヶ月に始まった番組のようだが、NHKの夜のバラエティ番組で「日本GO」というのを放映している。午後10時台は比較的見やすい時間帯なので、気がついたときにはチャンネルを合わせることにしている。
先日は、一部の接客業について、むやみに「様」をつける傾向があり、それがあまりに不自然だということで、実際にあったさまざまなケースを取り上げていた。そういうこともあるのかな、と思いながら見ていたが、先日、自分にもそういう店員が当たった。
ある家具メーカーのショールームである。そこは最寄り駅から歩いて10分ほどかかる場所であり、周囲は倉庫やオフィスビルが立ち並ぶ場所だ。決して商店街、繁華街ではない。したがって、そこに入る人は通りすがりではなく、わざわざ目指して行くわけだ。
そういう施設だから、ビルに入るとまずはフロントで受付をさせられる。住所、氏名、電話番号などを記入し、今日はどのような家具を探しに来たのか、どこからの紹介で来たのかを聞かれる。
「お名前様をお願します」
明らかな二重敬語である。多少違和感があるがまあいいことにしよう。
「どちらのデパート様の、どこのお店様のご紹介でしょうか」
ここまでくると許しがたい違和感がある。デパートも店も人ではない。様を付ける必要はない。とっさに笑ってしまったが、店員は悪びれもしないで会話を続けた。
もちろん家具メーカーにとって、デパートはお客さまを紹介してくれ、自社の製品を取り扱ってくれる。商取引的にも立場が上である。気持ちは分からないでもない。
一方で、この店員には、万一にも周囲の誰かに失礼があっては大変だから、という意識があるのではないだろうか。とにかく四方八方に丁寧にしておけば、人の気持ちはどうでも、少なくとも自分は文句を言われる筋合いではないだろうくらいの人間性を感じる。裏返しのコンプレックス、目の前の客との定位を測れない。言葉の丁寧さに、気持ちの浅はかさが見え隠れする。この会社の家具を買いたい気持ちが失せた。
NHKの番組では、あるホテルのフロントの例も出されていた。いらっしゃったお客さまに「いらっしゃいませ。失礼ですが、何様でしょうか。」と言ったという。
これに対しては、皆さんは何と返すだろうか。私なら「はい、関根様ですよ」と答えるか、「あんたこそ何様だ!」と怒るかどちらかだろう。
代表
関根健夫( 昭和30年生 )