2010 年 6 月 3 日
田舎者
親友のKさんからメールをいただいた。Kさんは香川県に住んでいる。その最後に
「田舎者の私....。でも、東京に友人を持てたことが大きな財産です。」と書いてくださった。もちろん、この場合の「田舎者」は氏の謙遜の表現であり、親愛の情から出たユーモアと解釈すべきものだ。
「田舎者」とは何だろうと考えた。
ひとつのシーンを思い出した。私が小学校の頃である。目的は忘れたが、父に連れられて鉄道会館に行った。鉄道会館とは、東京駅八重洲口の真上にある、大丸デパート東京店の入った14階建て、当時としては付近で一番高いビルで、その最上階に鉄道会館という結婚式場や宴会場があったと記憶している。つまり鉄道会館はビルの名称でもありパーティー施設でもあった。ビルは、現在は取り壊されている。
そのフロントの側の階段付近で、結婚披露宴に出席した人であろう、黒い礼服を着た数名の男性の中の一人が通路の床につばを吐いた。その人は、その日のために地方から上京した人と思われた。
私は子ども心に“汚いな”“いやだな”と思った。すると、そばにいた父が「まったく、田舎者が!」と吐き捨てるように言った。その言い方が非難を含んでいることは間違いない。私は幼少時代、いわゆる“パパっ子”であり、父は優しい存在だった。だから、そのときの口調が、父の一言にしては口汚く聞こえ、どこか心に残っている。父は26年前に56歳で他界した。
つばを吐く、しかも室内でというのは、とにかくいけない行為なのだと、今は当然に思うのだが、父にそこまで言わしめたのだから、当時も子ども心にそう刷り込まれた。
この時代において、地方に住んでいる人を田舎者、東京に住まっている人をそれ以外などと、単純に考える人はいないだろうと思う。結局、私は今、このように解釈している。「田舎者」とは、ある環境下で周囲の人に違和感を与える人、他の人が迷惑を感じる行為をしても自分に恥を感じない人のことだと。
たとえば、
目上の人の前で、敬語が正しくつかえない人。(若者言葉も問題だ!)
レストランで食事中に、くせのように髪を掻き上げる人。(高級な店にも時々いるぞ!)
会話で人の話の腰を折ってもお構いなしの人。(明るいのは結構だが!)
一人でしゃべり続けて、「私って、‥‥‥じゃないですか」(そんなことは知るか!)
北海道のペンションで、エアコンがないとクレームをつける人。(自然を楽しめ!)
国内の観光地で風景を見ながら、周囲の人に「モンブランほどではないね」(帰れ!)
「田舎者」はどこにでもいる。
冒頭に紹介したKさんは、地域のナンバーワン企業の管理職である。経営層をサポートする部署の責任者の立場に就いている。仕事での活躍には嫉妬すら感じるほどの地位だ。社会的に立場の高い人の知己も多いはずだ。
頭脳は明晰で組織の長としての判断力はすばらしいものがある。それでいていやみもなく、気配り、心配りができる、人格者と思えるほどの人である。間違いなく「田舎者」ではない。
代表
関根健夫( 昭和30年生 )