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2011 年 9 月 16 日

それを風評加害というのではありませんか

 先日、西日本のある都市へ行った。地元のNHKニュースで報道されていたことで、怒りを覚えた。もっともこのようなニュースは他の例でもあったことだ。見聞きするたびに暗い気持ちになる。

 ある県庁所在地の自治体でのことである。小中学校の生徒の保護者が、学校や市などに対し「給食に東北や関東、中部地方の食材を使わないように」と陳情したという。その市ではそのことを認めて、今後は地元の食材を中心に調達するというのだ。そこまでは理解もできよう。地産地消は意味がある。しかし、このニュースでは地元だけでは安定的に安価で調達するのは難しいので、実質的に九州、四国、中国、北海道の各地方から調達するということを、日本地図を色分けして示していた。
 理由はいうまでもない。放射能である。地元の食材といいながら、実際は特定の地方の排除である。何故か関西地方も調達されないほうに含まれていた。

 番組にインタビューで登場したその市の管轄部署の管理職は「市民の皆様に安心して給食を食べていただけるよう‥‥‥」と誇らしく答えていた。もちろん私が見た印象である。解釈が違ったら申しわけないが、報道の姿勢も管理職の発言のニュアンスも、このことが市民のためになり正しい判断であるとの印象だった。

 はたしてこの判断は正しいか。私は、きわめて愚かな判断だと思う。
 ならば、東北、関東、中部、関西地方の食材は危険だというのか。現時点では、少なくとも国の暫定基準(1キログラムあたり500ベクレル)を上回る放射性物質を含んだ食材は流通していない。つまり、常識的には危険性は認められない。不安なだけだろう。
 子どもの親が不安を訴えるのは勝手だし、東北の食材は不安だという理由で買わない個人はいるだろう。私はそれも愚かなことだと思うが、それは個人の金の使い方である。とやかくとは言いがたい。
 しかし、今回の主人公は行政である。市に陳情した市民はいかほどの数か、そのことはニュースでは取り上げていない。こんな時節だから、むしろ東北の食材を購入して応援しようという考え方もあるはずだ。そういった立場の人もいるだろう。
 いろいろな意見があるから、行政は根拠のある事実をもって判断すべきなのだ。この場合の根拠のある事実とは、先に書いた国の基準であり、基準を上回った食材は流通していないという事実だ。根拠のない市民の不安によって動かされるのは、行政が己の決断という責任を放棄したということだ。

 世の中にはそれぞれの立場で正論が存在するのだから、陳情した人の立場ではこの処置は正しいことだと思っているのだろう。市民の不安を取り除くためにと、その決断をした市の職員も、その立場では正しいことだと思っているのだろう。
 しかし、これは決して正義ではない。市民に安心してもらいたいなら、正しい情報を提供し、説明すべきなのだ。不安だからと調達先を変えて、市民を安心させようとするのは無責任な判断だ。

 一見正論と思える愚かな考えが東北の人々を苦しめている。
 こういった人たちを、風評加害者というのではないか。

代表

関根健夫( 昭和30年生 )