2011 年 10 月 4 日
一番美味しいものは何ですか - 島根県浜田市
私は研修、講演の講師をしており、北海道から沖縄まで全国に伺っている。ほぼ毎日旅に出ているようなものである。しかし、日中は仕事をしているわけだから、いわゆる観光はできない。楽しみの一つは、仕事が終わる夕方以降にその土地の美味しいものを求めて食べ歩くことだ。
せっかく食事をするのだから、単に腹を満たせばよいという考えはもったいない。というわけで、その土地ならではの食べ物や美味しいと評判の店を地元の方々から聞き出して、また自分で歩きながら想像力をはたらかせて選び、こだわって食べることにしている。しかしながら、私もさすがの50歳代だ。これを毎日続けていては栄養過多になる。“この日は”と決めて気持ちを高める。
そんな生活環境なので、人によく聞かれることがある。それは「全国で、何処の何が一番美味しいですか」という質問だ。これには困る。
私は幸いなことに、嫌いな食べ物がない。好みに多少の序列はあるが、食べられないというものはない。明らかに愛情、誠意を感じないものを提供されるとがっかりはするが、基本的に残したりはしない。どんなに粗末な食事でも、出されたものはそれなりに美味しいと感じること、これがグルメの第一条件だと思っている。
どこの町にも、特徴的なものがある。その土地の風情を感じるもの、その土地独特のものであれば、比較的安い屋台のお店も美味しいし、反対にお金を出しさえすればそれなりに美味しいものはいくらでもある。どれが一番かと言われても、何とも答えに困るのである。
先日、島根県の研修で浜田市にお邪魔したときにも、研修をアテンドしてくれた女性(素敵な奥様コンテストに出したいくらい明るい方だが、そんなコンテストはあるのかな?)と会話をしていたらこの話になった。何も答えないのでは質問者にも失礼であろうというわけで、「例えば‥‥‥」という話をする。
例えば、その浜田市にも私がすばらしいと思う店がある。客観的に全国一かどうかは別として、全国を歩いている私としては、超マジお勧めの店だ。
JR浜田駅から徒歩2分ほどのところにある「ケンボロー」という豚肉料理の店がそれだ。メニューは、とんかつと豚のしゃぶしゃぶがメインだが、豚肉を使った燻製などのおつまみも豊富でワインもある。この店のとんかつ、しゃぶしゃぶは美味しい。奇をてらう感じはなく、肉質の良い食材を真正面から調理している。とんかつについては、私の中では日本一美味しいという感がある。東京出身の私にとっては、オリジナルソースがやや甘いが、肉質がいいので岩塩で食べるのもいい。
店内はファミリーレストラン的なインテリアだが、ホール、個室、小上がり席もあり、テーブル構成はバラエティに富む。一人でも二人でも、ファミリーでも宴会でも使える。各テーブルも広目だ。雰囲気も明るい。料理の味、質、量、店の雰囲気を考えると、1500円前後からの定食、3000円からのコース料理、価格設定も決して高くないと思う。
また、この店の女性店主が実に闊達、打てば響く会話ができる気持ちのよい方である。アルバイト従業員には厳しい一面も見せ、従業員も店主に引っ張られるように明るく元気だ。店の前では有機野菜の即売をしており、こういった点でも、地元食材にこだわりを持つ店のコンセプトを感じる。
この浜田市に最近、もう一つ期待できそうな店をご紹介いただいた。「海旬」という和食の店だという。先般、行ってみようと思い、先ほどの女性にその晩の予約をお願いしたが満席だったという。超人気店であり、イメージ的には1ヶ月前くらい前に予約をしないと入れないらしい。今年はダメだったが“行ってみよう”から“来年こそは行かねばならない”と期待値が変わった。私は運がいい。
このようなことを全国の人に話しても、とんかつや和食を食べるためだけに、わざわざ島根県浜田市まで行くことはないだろう。だいいち、浜田市といってもすぐにその場所と特徴が思い浮かぶ人は少ないかもしれない。島根県西部で日本海に面した人口6万人強の石見地方の中核的な都市である。広島から北方向へ高速バスで、約2時間弱で着く。萩・石見空港からなら車で東方向へ1時間ほどだ。
浜田市自体を観光目的に行くことはないかもしれない。萩、津和野をめぐり、世界遺産に登録された石見銀山へ向かう途中で、チャンスをつくって行ってみたらよいだろう。
世間の人々がめったに行くことはないであろうこの地に、私は仕事で毎年行くことができている。なんと幸せなことだろう。今回ご紹介した店は地元では有名な店だが、島根県を離れると知る人はあまりいない。
日本中の多くの人が知らないだろう、行くことがないかもしれない店、それを知っている、行こうと思えば行ける。このことに何ともいえない背徳的な喜びを覚える。
私の性格の悪さを自覚する。
代表
関根健夫( 昭和30年生 )