2011 年 12 月 8 日
詫び言葉の意味 - 詫びと謝罪は別
日常生活では、さまざまなトラブルに出会い詫びることがある。仕事でもクレーム対応などで、詫びなければならない場面は多い。そのクレームでも、明らかにこちらに非があるケースもあれば、こちらには非がない言いがかりに近いケースもある。
しかし、どのようなケースでも、詫び言葉は現実的な対応法である。自分が悪くないのに詫びることには抵抗があるかも知れないが、多くの場合詫びたほうがいい。それは、詫びと謝罪は違うからだ。詫びたからといって、必ずしも自分の非を認めたことにはならないし、詫びたからといって、必ずしも法的責任を問われることはない。
折衝交渉やクレーム対応の際に、詫びると不利になるから、詫び言葉をつかってはいけないという考えがある。いろいろな理由があるようだが、ポイントは何に対して詫びたかが問題なのであって、詫びたという行為そのものが責任を問われることにはならないのだ。
以上は、弁護士が書いた複数の著書から、私が読み取ったことである。
例えば国家間の交渉や、企業がお互いの利害をかけて真剣勝負する場合には、詫びないほうが良いこともあるのだと思う。それはそれで間違ってはいないが、それは交渉の仕方であり戦術であるはずだ。国家間では習慣の違いもあるが、国際間の交渉で厳しい場面であるはずが、日本代表の政治家や役人がにこやかな表情をしているものいかがなものかとは、感覚的にはそう思う。
しかし、少なくとも日本人同士が、相手の誠意を信じて話し合うべき場面では、詫び言葉のひとことも言うべきでないと決め付けるのはいかがなものか。
基本的な問題として、言葉というものはすべて状況言語という性格を持っている。つまり、状況によって適否が決まるものであり、単純にどちらが正しいとは言い切れないということだ。同じ「バカ」という言葉も、男同士のけんかで口調激しく言うのと、恋人同士が耳元で甘えて言うのとでは、意味も違えばその後の関係性の展開も違う。
詫び言葉も同じである。詫び言葉というと、一般的に「申し訳ございません」「済みません」などがイメージされる。話し合いの内容についてこちらに非がないであれば、謝罪する必要は理屈の上ではありはしない。しかし、それでもなお謝罪ではない詫び言葉を述べたほうが、お互いの気持ちが軟化し、感情的に許せることはありうることだ。いや、そのケースのほうが多いと思う。
理屈の上で謝罪の必要がないのならば、接客用語的なつかい方で「ご心配をおかけして、申し訳ございません」などとつかえばよい。これは、その場の話し合いをよりスムーズに進めるための方便としての意味がある。つまり、クレーム対応であれば、次のような意味をもたせるわけだ。
「不快な思いをさせて、申し訳ございません。ただし、こちらとしてはすべきことをいたしたのみでございます」
「責任を取れと言われましても、こちらは法外なことをしたわけではありません。したがって道義的にはお詫びしますが、正式な謝罪をする必要はないと考えます」
つまり「ご心配をかけて‥‥‥」「不快な思いをさせて‥‥‥」「時間がかかってしまって‥‥‥」など心情的な意味で詫びたことを強調する。心情的な意味では詫びるが、断るべきことは断るのみである。気持ちと理屈を分けることが大切だ。
もし、相手方が「詫びたということは、自分の罪を認めたということだろう」などと意地悪く突っ込んできても、現実的には
「申し訳ございません。できません」
「申し訳ございません。お断りします」
「申し訳ございません。当方に非はありません」
「申し訳ございません。ご自分で解決してください」
などと、慇懃無礼を通すことでしかない。
こちらはあくまで相手方を思いやる意味で詫び言葉をつかったにすぎない。その気持ちが通じない場面では、慇懃無礼も作戦のうちだ。相手がどんなに悪質なもの言いをし、手段を行使してきても、こちらは同じことはできない。ていねいな気持ちを表現しながら、言うべきことを言うまでのことだ。
あまりひどい逆襲を受けたら「こちらはお気持ちを考えて『申し訳ございません』と申しました。それが分かっていただけないなら、これ以上思いやりの言葉はつかいません」などと啖呵を切ればよい。
詫び言葉は必ずしも謝罪ではない。こちらに法的に問題がない限りいくら詫びても法的な責任を問われることはない。これが原則だ。
このことは家庭生活でもいえる。夫婦の間のトラブルは、それが法的なものでもない限り、お互いに詫びて済ます。これが家庭円満の秘訣だ。逆に、法的に問題のあることをしてしまったら、詫びて済ませようというのは無理なことだ。もちろん、法的に問題になるようなことは決してしてはいけない。私は妻と結婚以来、それには自信がある。当たり前か。
詫びたことによって、妻に「あなた、悪いと思っているから詫びたのでしょう」と言われたら「不快な思いをさせたことについて、申し訳ないと詫びたのだ」「私のしたことが、悪いかどうかはここでは議論しないが、あえて言うならば許して欲しい」と言う。最後は「君との良い関係を壊したくないから詫びたのだ。愛している」と言えばいい。
それで、一件落着となるかは保証も補償もしないが。
代表
関根健夫( 昭和30年生 )