2012 年 9 月 14 日
ワニを食べました - 何故、三次市でワニ
三次市へ行った。三次市といっても、それがどこにありどんな街なのか、直ちにイメージできる方は少ないのではないかと思う。三次市は、広島県の北部にある。島根県と境を接する。人口約6万人弱、鵜飼が行われる川が流れる静かな街である。マツダの自動車のテストコース、特産のぶどうを使ったワイナリーもある。
先日、その三次市で広島県主催の研修を終えた。この地に実家があるという受講者がやってきて、友人と食事をするので一緒にどうかと誘ってくれた。嬉しいことである。会計は割り勘を条件に、喜んで参加することにした。せっかく東京から来たのだから、三次の名物をということで、市内の料理店に連れて行ってくれた。
まずはビール、刺身の盛り合わせを注文したのだが、何故この山間の地で刺身かと思った。最近は魚の輸送技術も進んで、何処でも生きの良い魚が食べられる。ま、いいか、とあきらめ顔の私の前に出てきたのは、島根県浜田漁港直送という、本当に生きの良い刺身の盛り合わせである。しかし、ちょっと様子が違う。真ん中に薄いピンク色の肉厚なものが載っている。これが三次を代表する食材、ワニだという。
そうかワニは水生動物。アマゾンの奥地にいそうだ。ということは、この山間の三次にそれがいてもおかしくはない、と早合点。でも待てよ、そもそも日本に野生のワニがいるか?、そんな話は聞いたことがないぞ。
勘の良い人はお分かりだと思う。山陰地方では鮫、ふかのことをワニという。そういえば鳥取に白兎海岸という場所がある。神話「因幡の白兎」の場所だ。ウソをついた兎がワニ(鮫)に皮を剥がれてしまう、そこへ大黒様が通りかかり、兎を諭して助けるという話だ。幼い頃、人をだましてはいけないという教えとともに父から聞いた。そう、あれは確かにワニだった。
薄いピンク色の刺身は鮫だったのだ。これが淡白でなかなか美味しい。食感は鳥の生のささ身肉に近い。しょうが醤油で刺身。湯引きにしてポン酢をかけてもいける。
ところで、何故、この山間の地でワニか。仲居さんに聞いてみた。この地域は古くから、山陰地方との交易が盛んだったらしい。しかし、冷蔵技術のない時代、生の魚は2~3日で腐ってしまって山陰の海からは運べない。ところが、ワニは肉にアンモニア成分が多く含まれていて、身が腐りにくいのだという。それで、この地の方々にとって、ワニは山陰から運ばれる唯一の鮮魚だったというわけだ。
では、それが獲れる山陰地方ではどうか。ワニは食材としてその地の名物なのか。出雲出身の方に聞いてみた。
「そんなものは食べませんよ。あれは、たとえ網にかかっても捨てる魚ですから。他に新鮮で美味しい魚がいくらでもありますから。鯛とかのどぐろとか‥‥‥」
まさに、所変われば、である。
しかし、ワニはワニで美味である。これは多くの方に、是非一度は召し上がっていただきたいと思う。
以上、自称「単に食べたいだけグルメレポーター」のレポートである。
代表
関根健夫( 昭和30年生 )