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ブログ

2013 年 8 月 19 日

ゼロリスクのコスト - 世の中に100%の安全はない

 東日本大震災の後、我が国の復興のスピードは速かったのか遅かったのか、政府の対応が良かったのか悪かったのか、何ともいえない。また、こういった広域的かつ700年とも800年ともの間隔に一度の大災害であるから、いくら検証しても良し悪しを確定的にいえる性質の話でもないのだろうと思う。
 日本列島、何から何まで「がんばろう」「応援しよう」「絆」などとスローガンが並ぶ。しかし、少なくとも瓦礫の処理を自分の地元ですることの反対運動や、放射能についての不安や将来の心配を報じるニュースを見るにつけ、その反面の風評被害を煽っている結果になるであろう報道に怒りを覚えるのは私だけだろうか。

 一つの現象をとらえて、その悲惨さを報じるなら、そのことについての幅広い事実も同時に報じるべきである。心ない報道に触れるにつき、日本列島はまさに薄情列島であると、私は心を暗くしている。また、私たちもマスコミの一面的な情報をすべてと思い込むべきではなく、さまざまな情報を得る努力し、考えて、人と話し合うことが大切なのだろう。

 先日、松山市での研修の帰り、市の繁華街である大街道の交差点で、高校生らしき女子学生5~6名ほどが、四国電力伊方発電所の再稼働反対を訴える街頭宣伝をしていた。大きな紙に自分たちの主張を手書きで書き、道行く人々に原子力発電所の危険性を訴えていたのだ。手作り感いっぱいの張り紙を作り、若い人が自分たちの意見を主張する行動は、まるで学校の授業の自由研究のようであり、夏休みのある日の光景として、私は好感すら持ちながらその場を通り過ぎた。
 しかし、主張の内容は、今の世間のポピュリズムそのものであった。原子力発電の危険性、事故によって東北の人々がいまだに自宅に帰れないでいる、などを謳った主張が中心であった。彼女たちに対して、大人たちがもう少し冷静、かつ現実的な知識を付与することはできないものだろうか、心が痛んだ。私は、再稼働反対を訴えることそのものを否定しているものではない。原子力発電所を動かさないことにもリスクがあることを、冷静に考えることができていない、その考えを憂いているのだ。
 世の中に100%の安全はないのであって、あるとすれば、それは神のみが持ちえることで、人間は悲しいかな、比較的な立場でものを考えるしかないのである。

 一つの例として、最近、日経ビジネス誌で取り上げていたワクチンの問題がある。日本には外国に比べて、予防のためのワクチンが使いにくい環境があるのだという。外国では認められているものが、日本では認可されない、従ってその面では世界から遅れているのだという。
 一例として、最近一時話題になった女性特有の病気、子宮けいがんがある。
 20歳代から30歳代の若い女性がこのがんにかかり、毎年3500人がこの病気で命を落とし、また治癒しても、多くの場合、子どもが産めない体になってしまうのだという。

 マスコミがネガティブキャンペーンを展開し、このがんの悲劇を報道した結果、このワクチンは、欧米より3年遅れて2009年に厚生労働省で認可された。世界では99番目だという。
 3回接種する必要があり、当初は約5万円が自己負担だったが、これが有用だということで、2010年からは多くの自治体が補助を出すようになり、2013年からは小学6年生から高校1年生までの間には、無償で受けることができるようになった。厚生労働省も接種を推奨した。結果、328万人以上が接種を受けたという。
 一方で、この接種による副作用の報告も2000件に上り、357件が呼吸困難や歩行障害、けいれんなどの重度の副作用に襲われたという。
 このことを、またもマスコミが取り上げ、ネガティブキャンペーンを打った。障害を持つにいたった中高生が、痛みで苦しむ映像を流した。これについては、私も記憶に新しい。
 かくして、厚生労働省は子宮けいがんワクチンの接種を推奨から外した。今も無償ではあるが、国が推奨しないものを受ける人も当然に少なくなったという。

 この3年間で357人の若い女性に重度の副作用が出た。もちろん、この人たちはワクチンの接種を受けなければ、発症はしなかった。それは間違いがない。また、副作用に悩まされた彼女たちには、同じ国民として何らかの手を差し伸べるべきと考える。
 しかし、一方で毎年3500人の若い女性が、このがんで命を落とす。ワクチン接種でその大部分が防げる。これも事実だ。マスコミは、この2つの数字を並べて、視聴者に考えることを促すべきだ。
 私たちも、単に怖い、気持ち悪いではなく、リスクを真剣に考え対策をとるべきだ。単にやめるのでは解決しないのだ。

 社会の問題は、その多くがどちらが正しいかの問題ではない。どちらがレス・バッドなのか、私たちはどちらのリスクも受けなければならない現実を冷静に考えていかねばならないのだ。
 あの街角の女子高校生グループと、冷静に話し合ってみたい衝動にかられた。

代表

関根健夫( 昭和30年生 )