2013 年 11 月 30 日
広島県呉市 - 思いを感じる街
広島県呉市に伺った。今回で4回目である。
初めて伺ったのは、もう10年ほど前かと思う。太平洋戦争当時の戦艦「大和」がこの地で建造されたことを記念に、大和ミュージアムができて話題になっていた。「男たちの大和」という映画が公開されていたころだ。
瀬戸内の島々や海岸線が入り組んでおり、入江が形成されていたことから、この地に海軍工廠がつくられたのだという。今も、造船所や海上自衛隊の基地がある。
私は、もともと旅行好き、食べ歩き好きなので、全国各地に呼んでいただいて講演、研修の合間に美味しいものを食べ、その街を歩けることはありがたい。そういう意味では、仕事で伺う都市の一つに過ぎない。
しかし、なぜか私には思いを感じる街だ。
気になる理由の一つは、先に記した「大和」だと思う。戦艦「大和」というと、当時の技術を駆使した世界最大の艦船であり、宇宙戦艦ヤマトのイメージもあって、すごい、偉大、かっこいいといったイメージをもつ人もあるかもしれない。実際に市も大和ミュージアムを観光資源にしている。
旧海軍の名前を使って「海軍さんのコーヒー」「海軍さんのカレー」「海軍さんの地ビール」など、各種商品も売られている。私も応援する意味で購入したが、これらを見るにつけ私の思いは手放しで明るいものではない。
当時の大和には、3000人もの乗組員が乗務していたという。その船がこの地で建造され、母港にしていた。ということは、乗組員と3000組の家族との別れが、この地であったのだろうということだ。多くの人が帰らぬ人となった現実は、それだけの悲劇がこの地を舞台に繰り広げられたということだ。そこには、軍港というひとかけらの言葉では表せないものがある。そんな理由で、この近代的な街並みのそこここに、人の思いを感じるのだ。
もう一つの理由は、今回の呉市の研修会が行われた経緯である。二人の研修担当者が、過去に私の話を2度、3度と聞いて気にいってくれ、私の話がよかった、人生が変わったとまで言っていただき、いつかは当市にも呼びたいとおっしゃってくださっていた。数年越しの思いが、やっと実現したのが今回の呉市の研修だったからである。ここにも思いを感じる。
今回、その職員が昼食を案内してくれた。もちろん、割り勘で好きなものを食べるのだが、一人の食事は味気ないのでご一緒いただけることはありがたいことだ。
そのひとつが、呉冷麺である。冷麺というと、焼き肉店で出てくる半透明な弾力のある韓国風の冷麺を想像するが、呉の冷麺は大きく違う。麺は平打ちの中華麺風。スープは鶏がら出汁のラーメンスープが中途半端に冷えた感じ。ワンタンが数個乗っていて、冷めたラーメン風なのだ。いわゆる冷やし中華とは全く異なる、何とも素朴なイメージだ。これが繁華街から離れた、10人も入れば満席の、カウンター式で壁に向かって食べる、小さな汚い(失礼)店で供される。それが昼には地元客で満席になる。並ばないと食べられない。店も味も見た目にも高級感はみじんもないが、何とも後を引く、また食べたくなる味なのだ。
ガイドブックにも載っているらしいので、このブログをお読みになった方は、ぜひ行って食べてみていただきたい。
2つ目が、壺カレー。鉄製の壺のような容器で、一人一人煮て出てくるカレーだ。別の皿にサフランライスがドーナツ状に盛られており、とんかつやから揚げなど好みのトッピングを乗せてもらい、その中心の空洞部分に、先ほどの壺からカレーを注ぐ。単なるカレーだといえばそれまでだが、他のカレーとは一味違う。まさに、煮込み方が深いので、コクがあるのだ。このタイプのカレーは、広島市内にも店があるらしいが、呉が本元だということだ。店員も明るく、感じがよかった。
3つ目は、細うどんだ。今や呉名物として売り出し中だ。この地ではうどんといえば皆、細いのだそうだ。単なるうどんといえばそれまでだが、麺が細い。腰がない。素朴なうどんだ。太くて腰のある讃岐うどんとは大違いだ。
案内された店は、古い民家の1階。国道わきの裏通りで、これまた決してきれいとはいえない店構え。テーブルも椅子も古くて貧弱。メニューはうどんとそばの各種だが、お客はほぼ100%うどんを注文するという。
出てきたうどんは細い普通のうどんだが、鶏がら出汁のスープと相性が実にいい。スープには鳥のそぼろととろろ昆布が入っていて、それらも麺と絡む。決して高級感のある味ではないが後を引く。
なぜ呉のうどんは細いのか、市の観光課の職員の説明によると、かつて軍港として、その後大型船のドックや工場が数多く栄え、多くの工員らが早く食べられるように、手早く調理するためにゆで時間をカットする意味で細くしたとのこと。ここにもかつての工員の哀愁を感じる。
他にも、焼鳥屋さんの多いこと、焼鳥屋さんには大方生簀があり瀬戸内の新鮮な魚が食べられること、夜には屋台が並ぶにぎやかな一角があること、呉の海軍さんの地ビールは6年連続地ビールコンテストで入賞していることなど、この街は奥深い。
今の平和を謳歌している現代人は、是非呉市に行って、見て、食べて、この街を感じてほしいものだ。
代表
関根健夫( 昭和30年生 )