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2014 年 9 月 26 日

原子力発電所の安全対策 - 再稼働への期待

 九州電力川内原子力発電所が、新しい安全基準に適合したという。地元の理解が得られれば再稼働になるようだ。電気料金の高騰、燃料輸入による貿易収支の悪化、経済環境の変化などを考えると、安全性を担保されたプラントを再稼働することは喜ぶべきことだと思う。

 今年は、4月に四国電力伊方原子力発電所、5月には中部電力浜岡原子力発電所を見学する機会を得た。
 伊方原子力発電所は、加圧水型原子炉である。愛媛県の西端、伊方町にある。研修で何度も伺っていて、すでに数十回は訪問している。仕事以外にも、見学、家族で旅行した折にもビジターズハウスを訪問しているので、発電所の概要は大体把握している。10年ほど前には、定期検査中に放射線管理区域である原子炉格納容器内部にも入れていただき、燃料交換の現場を見る機会も得た。また、交換した蒸気発生器に近づいて見学することもできた。

 一方、浜岡原子力発電所は、私が初めて見学した原子力発電所である。もう30年ほども前になるが、中部電力の研修をするために、原子力発電所とはいかがなものかと見学に伺ったのである。当時は1号機、2号機が稼働中で、3号機、4号機は建設中、5号機は計画中であったかと思う。こちらは沸騰水型原子炉。下着以外のすべての衣服を着替え、放射線管理区域に入るという緊張感を味わうことができたという意味では、忘れられない施設である。今回の見学は、私にとって5~6回目になるだろうか。現在では、1号機と2号機は、その役割を終え、廃炉が決まっている。

 全国の原子力発電所は、現在停止中だ。東日本大震災により、原子力発電所の安全基準が変わり、これまでの基準に加え追加の対策が必要になり、それが工事されているからである。今回の2件の見学は、まさにその工事の最中の現地見学であった。いや、それを見たかったのだ。
 特に浜岡発電所は、東南海、南海地震が起きたときに、津波の高さが21メートルにも及ぶ可能性があるという発表があり、現在、敷地内設備を守るために22メートルの高さの防波壁が建設されている。果たして22メートルの壁とは、いかなるものなのか、これを見たかったのだ。
 もっとも、津波の高さは理論的に考え得る最大値であって、そうなるとは限らない。それでも、万が一にも津波が壁を越えた場合に、プラント内に水が浸入しないようにする水密扉や、高台に新設された非常用発電機、さらに万々が一の場合に原子力建屋内の圧力を下げるためのフィルターベント設備の建設工事現場など、まさにそこここが工事中だ。
 もっとも、フィルターベントは、すべての安全装置が壊れて、放射性物質を含んだ気体が建屋内に充満した時に、それを外に出す場合の設備だから、非常用発電機等とは次元が違う対策である。

 伊方発電所は瀬戸内側に面しているので、巨大津波の可能性は極めて低いが、それでも想定を数メートルに高め、非常用発電機を増設して、その設置位置を60メートル以上の高台にしている。こちらも数え切れないほどの安全対策工事が進行中だ。

 3年前の東日本大震災で、福島第一発電所が事故を起こした。その時、プラントは地震の振れを感知して、原子炉には制御棒が緊急投入された。結果、原子炉は安全に停止していた。そういう意味では、発電所のシステムには大きな異常はなかったのである。
 しかし、地震により、地域一帯が停電し外部からの電源が失われた。それを、2基あった非常用電源設備がバックアップしていたのだが、その後の津波によりそれが冠水した。すべての電源が失われた。結果、原子炉を冷やす水を循環することができなくなった。
原子燃料は核分裂が停止しても、崩壊熱を発する。これにより各部が異常に高温になり、燃料を冷やす水が100度を超えて蒸発した。すると燃料が空気中に露出し、さらに高温になった。燃料を覆うジルコニウムなどが高温に反応し、水素が発生。最終的に建屋が爆発した。燃料そのものはメルトダウンして、手をつけられない状態になり、今も原子炉建屋の下部に溜まっている。

 私は専門家ではないので、事故の詳しい検証はできない。しかし、今回の事故からいえることは、プラントの各種設備を津波から守ることが、何よりも大切だということである。そして、最悪の場合でも動く発電機を確保することである。
 そういう意味では、今回の見学で、両発電所とも大丈夫であろうという実感を持った。非常時の電源確保という意味で、すでに両発電所の安全性は、福島第一発電所のあの当時の設備より、感覚的な比喩だが100倍も担保されたと思われる。

 東日本大震災は、500年とも、700年とも、1000年ともいう周期でのプレート型大地震である。それに対して、原子力発電プラントは、せいぜい40年から60年の稼働が想定されているに過ぎない。その間に、決定的ダメージを及ぼすほどの地震が起きるかどうか。たとえ起きたとしても、今までの100倍とも思える安全対策が実施済み、または進行中である。
 正直なところ、これ以上の対策、安全議論は無駄に思えてきた。原子力発電プラントを再稼働させないリスクのほうが大きい。

代表

関根健夫( 昭和30年生 )