2016 年 1 月 31 日
横浜のマンション問題 - このマンションは傾いていない
三井不動産が分譲した横浜のマンションで、杭の一部が支持層まで届いていなかったことが判明した。隣の棟との渡り廊下の継ぎ目(エキスパンションジョイントという)の部分が、数センチほど上下にずれていたことから発覚したという。
このニュースは、話題性が下火になってきた感があるが、私は最近になってますます思いを深めてきた。その理由は、次のとおりである。
我々は、ニュースや新聞、インターネットを通じてこの情報を得る。最近のこのニュースの見出しは、ほぼ「傾斜マンション」「傾いたマンション」となっている。論調も「傾いた」という言葉をつかっていることが多い。かつてマンションの建築現場に関わった、建築学科卒業の者として、この表現は実に腹立たしい。あのマンションは傾いていない。
杭の深度が足りず、支持層まで届いていなかったのは西棟の8本だという。報道で見る限りそれは、道路側から見て右側だ。よって、最も右に位置する渡り廊下の継ぎ目で、隣棟との接続部分で下にずれた訳だ。棟全体には、正常な深度まで入っている杭が支えているので、左半分は正常だと思われる。つまり、杭が支持層に届いていない部分、棟全体の途中から右側が、構造的にたわんでいると考えられる。したがって、建物全体が傾いたわけではない。
仮に全体が傾いたと仮定しても、あれだけの大きさの建物の端で2センチと聞いている。世間一般にこれを傾きというだろうか。数十メートルのスパンの一端で2センチのずれであるから、一般的に生活していても誰もが気づかない程度である。生活する上でおかしいと実感した人はいないだろう。仮にビー玉を床に置いても、転がっていくことはない。それを言い出したら、あの程度の傾斜をもった床、廊下をもった住宅は、テレビのビフォア―アフターに出るほどではなくても、世の中にいくらでも存在する。
あのマンションには、人々は今でも住んでいる。マスコミが「傾いたマンション」などと報道すると、実際に住んでいる人はきっとみじめだろうと思う。「え、まだ住んでいるのですか。大丈夫ですか。」などと、世間の目も違ってくるだろう。
昨今のマスコミの論調が、被害を受けた住民の今を、より一層陥れることになる。冷静に事実を報道すべきマスコミが、センセーショナルな見出しと論調をもって世論を煽るのは、昨今の常とう手段であり、何とも破廉恥な性を感じる。本ブログに、箱根大涌谷の時にも論調したが、冷静な報道をしてもらいたいものだ。
誤解のないように確認しておくが、私は杭の深度不足を容認しているわけではない。たった8本だから、そのくらいは大丈夫だと言っているわけでもない。(実際には、地震が来てもこのことでこの建物が決定的に崩壊することはないだろうと思うけれど)もちろん、支持層に届いていない杭があったなど、あってはならないことである。もちろん住民に対しては売り主に責任がある。当然に補償すべきである。この場合の補償は、法的には補修である。再築の義務はないと思うが、売主がそうするなら、それはそれで責任の取り方だ。
今回のことでは住民の心理的負担や風評被害も補償の対象になるだろう。心理的負担や風評被害の法的義務は、難しい判断だと思われる。今回の場合、常識的には何もなしでは済まないだろう。そのことに対しても幾ばくかの金品が支払われるはずだ。
いずれにしても、多額のローンを負ってマイホームを購入した人たちには、大いにお気の毒だ。数年前の姉歯建築士事件を思い出す。あのケースは完全に作為があったようだ。
今回の責任が誰にあるかは別として、せめて「傾いたマンション」などと、興味本位のような言い方はやめてほしいものだ。
代表
関根健夫( 昭和30年生 )