2016 年 2 月 21 日
横浜のマンション問題 その2 - 責任の取り方
横浜のマンションのある棟の一部に、杭打ち時のデータ改ざんがあった問題。データ改ざんは、もちろんあってはならないことだが、杭が岩盤に届いていれば問題はここまで大きくならなかっただろう。しかし現実は、マンションの一端で隣の棟とずれており、杭が硬い岩盤に届いていないことが判明した。それが大問題になった。
私は20歳代の頃、マンションのアフターサービスを担当したことがあるので、このことで考えることは多い。このマンションが今すぐに住めなくなるわけではないが、なくてはならないものがないのであるから、売主は買主に対して責任を取らなければならない。この責任は、すべて売り主である三井不動産にある。売り主が前面に出て問題を解決することは常識的にも当然の責務である。
しかし、一時、マスコミに多く登場したのは、なぜか旭化成の社長以下役員であった。その旭化成の社長が先日辞任した。旭化成本体には責任はない。親会社とはいえ、そのトップ(この人は薬学の専門家らしい)が辞任して幕引きすることには違和感がある。杭施工の実質的な責任は旭化成建材という会社だ。もちろん、親会社の責任もないわけではないが、マスコミには「旭化成」「旭化成建材」の文字が多すぎる。本来の責任の第一義は「三井不動産」であり、第二義は「三井住友建設」である。
一般的に建物に瑕疵がある場合は、それを取り除けばいい。今回の場合は、基礎から下の部分の補修である。私は杭打ち工事の専門家ではないが、杭が足りない、強度が足りないなら、継ぎ足せばいいわけだし、補強すればいい話だ。建物全体で2センチ程度のずれであるから、その部分をジャッキアップして、支持地盤まで新しい基礎を補強すれば、補修は可能だろうと思われる。
それでは納得できない、将来が不安だという買主が出てきて仮に裁判になっても、法的責任はそれで済むはずだ。慰謝料や迷惑料は発生するかもしれないが、その場所に住むことについて、実質的に問題は発生していないのであるから、それはそれで交渉、議論することは可能なはずだ。
ところが、今回は売り主の三井不動産が、問題のない棟も含めて、すべての棟を建てなおすと表明した。三井不動産のブランドイメージのダウンを恐れての決定だと思われる。補修なら居住した状態でもできる可能性があるが、すべての棟を建てなおすとなれば、数百世帯が引っ越しをして、2年ほど他に住み、また引っ越しをして戻って来ることになる。この間、実質的に住めなくなるわけだから、その間の住居費、引っ越し代、その他の精神的負担も補償の対象になるだろう。例えば、瑕疵の補修であれば1億円で済むとすれば、全体の建て替えは、補償費用も含めて数百億円にもなろうか。使える建物まで壊すというのだから、理屈で考えれば意味のない、もったいない話だ。
マンション購入者に対しては三井不動産に責任がある。三井不動産に対しては、建設を請け負った三井住友建設に責任がある。さらにその先は、日立の関係会社、さらにそれを請け負った旭化成建材、さらにその工事を施工した下請け会社と、最終的な責任はどんどん下へ行く。下のほうの会社からは、補修で済むかもしれなかった話を建て替えにしてしまった三井不動産への不満も出るだろう。いったい誰がどれだけの責任を負うのか、つまりは誰がいくらのお金を出すのか。
このような事象が、もし他の不動産会社の分譲物件で起きたらどうなるのか。今回の解決方法が前例となって、人々の意識がその方向に引っ張られるとすれば、この負担に耐えられる不動産会社、建設会社は、果たして我が国に何社あるだろうか。恐ろしい話だ。30年前に辞めた業界のこととはいえ、気になる昨今である。
代表
関根健夫( 昭和30年生 )