2016 年 4 月 23 日
一番美味しいものは何ですか その6 - 中央区銀座
全国に講演、研修で伺うと、出会った方々からこの質問を受けることが多い。私は答えに困る。私は食べ物について好き嫌いがない。基本的には何を食べても美味しいと感じるので、何が一番?と言われても困るのである。口に合わないとか愛情を感じないと思う料理に当たることはあるが、少なくともまずいとは思わない。それなりに美味しいと言うことが、グルメのグルメたる本質であって、高級なものを食べることをグルメとは思っていないのだ。
そうはいっても、私もいいものを食べたい欲求はある。寿司や焼き鳥で一杯飲むのも、適度にクウォリティは追及しているつもりだ。フランス料理、イタリア料理、中華料理も食べるし、食べる以上は美味しいものを探す。
10年ほど前に、会社のクリスマスパーティ会場を探していて、雑誌の紹介で銀座のフランス料理店「ル・マノアール・ダスティン」を知った。40人ほどで貸切パーティができることがポイントだった。つまり、広すぎず狭すぎずだ。
この店は、フルコース料理が8500円から18000円レベル。庶民感覚的な基準では、やや高めかもしれない。しかし、銀座の一等地にある高級レストランとして考えれば、銀座にはコース料理がおおむね20000円、30000円、それ以上という超高級店も多いので(行ったことはないが)単純な比較として決してそうそう高くはない。
この店、基本的にフランス料理だが、ジビエを扱っていて、素材にはいいものがそろっている。店に入ると、大きなワゴンに乗せられた各種食材を見せてくれる。本日はこのようなものを仕入れておりますと説明されるのは、まだ毛のついたカモやハト、見るからにみずみずしい羊やシカの肉、牛の腎臓など。その他にも魚介類、スーパーマーケットではお目にかかることのない色とりどりの野菜、例えばアスパラだけでも国産、海外産など数種類ある。見たこともないほど立派なキノコなども。ちなみに、普通のステーキ用のサーロインやテンダロインの肉はない。あっても見るからに立派なすね肉だ。
食材の調理方法も数種類、係の方が解説して勧めてくれる。客は「では、この食材を、‥‥‥の方法で‥‥‥」と前菜とメインをオーダーする。先ほど紹介したお任せのフルコース料理もあるのだが、それを頼んでいる人はまずいない。
しばらくすると、豚の生き血を使ったソーセージなど定番の前菜と、先ほどオーダーした前菜が運ばれる。スパークリングワインなどを飲んで待っていると、やがてメインに先ほどの食材が料理されて出てくるのだが、ここで驚く。先日も魚のソテーをお願いした。皿にソテーされた魚が乗っていて、その上にソースがかかっていることを想像していたが、付け合わせの野菜なども添えられて筆舌に表現できないほど見るだけで感動する。お皿の上のまさに芸術といっていい。奇をてらった感はなく、まさに食材を美味しく見せている。料理を見ているだけでも、言葉にならないほどの幸せを感じる。食の豊かさは品数や量ではない。まさに豊かさを感じるメインディッシュである。
シェフは、私と同じ昭和30年生まれのI氏。日本とフランスで修業したプロといえばそれまでだが、食材に合わせて一皿ずつ料理された彼の手による結果は、もちろん味の面でも私が今までに行った高級レストラン、例えばホテルオークラ、キハチ、オストラル、どこよりもいい。少なくとも私の口には合っている。以前、牛筋などが入ったおでん風のポトフが出されたが、これにも感動した。一流のシェフの味付けは、和食にも通じる。
この手の店に毎日行くのは贅沢だ。しかし、豊かさを実感できるこういった空間も、時には経験すべきである。ここ数年、大切な人との会食、妻の誕生日、結婚記念日の会食などにはこの店を利用している。今のところ、私の中でナンバーワンのレストランである。
東京都中央区銀座6丁目5-1、数寄屋橋交差点から外堀通りを南へ、一つ目の交差点角のビル、地下1階にある。
代表
関根健夫( 昭和30年生 )