2016 年 5 月 31 日
皆さん知っているのかな その3 - 自然エネルギーの怖さ
自然エネルギー、俗に再生可能エネルギーというらしいのだが、それを使った発電、具体的には太陽光発電、風力発電の設備が増えているという。大いに良いことだと思う。テレビ等の報道によると、世論調査などでは、これを増やすことに多くの人が賛成しているようだが、それはそのとおりだろう。このことを否定することには無理がある。
しかし、皆さん、自然エネルギーを使った発電について、それがどのようなものかを知っているのかな。そのことを理解している人が、少ないようにも思えるのだ。
まず、自然エネルギーは自然相手であることだ。太陽光発電は、パネルに陽が当たれば発電する。しかし、天気はきまぐれである。空が晴れたり曇ったりで、急に陽が照ったかと思えば、急に曇ることがある。単純にいえば、夜は発電しない。風力発電も、急に風が吹いたかと思えば、収まってしまうこともあるわけだ。つまり、発電される出力が常に不安定なのだ。
発電された電気は、比較的規模の大きいものは、送電線網に入っていく。例えば、家庭の屋根に設置される規模の小さい太陽光発電であれば、配電線に入る。この電気が、急に増えたり減ったりすると、その付近の電圧が急に上がったり下がったりするわけで。電圧の不安定、ひいては周波数の不安定につながる。これが怖い。
我が国の一般家庭向けの電気は、電圧が100ボルト、周波数は富士川を境にして東は50ヘルツ、西は60ヘルツである。最近の電化機器は、精密な制御を必要とするものが多いので、ある地域で周波数が狂うと、極端にいえばその地域では働かなくなる電化機器が出てくる可能性がある。コンピュータや精密モーターなどでは、影響が大きいという。
家庭で発電される規模であれば、急に多くの電気が発電されてしまうと、安全装置がはたらいて配電線への送電を停止する。つまり、せっかく発電しても電力会社に売れなくなるわけだ。「こんなに良い天気で、順調に発電しているのに、電気が流れない。おかしい。これでは儲からない。」といったクレームは、電力会社に最近増えているという。家庭の屋根に太陽光発電パネルを装着するとき、多くの人はパンフレットや設置業者の資料に基づいて決断しているのだろう。しかし、それは往々にして最も良い状態のカタログ上の数字であって、そのとおりに行くかどうかは何ともいえないのだ。多くの人は、こんなはずではなかったと言ってくる。
比較的規模の大きい太陽光発電、風力発電になると、増減の幅も大きくなるので、影響も大きくなる。そこで、その増減の幅に見合った別の電源を動かし、バックアップを取ることが必要になる。つまり、送電網を管理する側としては、どこかの地域で一時的に電気が余ったり足りなかったりすることがないように、余裕をもって電気を調達しておく必要があるのだ。ざっくり言うと、これを賄うのが火力発電とベースになる原子力発電だ。
去年あたり、比較的大きな規模の太陽光発電の建設申請が多く、九州電力などでは一時、太陽光発電所からの電気の受け入れ申請を断る事態にもなった。「クリーンな電気を、なぜ断るのか」などと、世間は電力会社に批判的だったが、万が一にも電気の品質を落とせない、したがってすべてを単純に受け入れるわけにいかない、電気事業者側にも事情はあったのだ。
原子力発電や火力発電には反対で、その分を自然エネルギーで賄えばいいなどという意見もあるようだ。大きなくくりではその方向で行くべきとしても、しかし、現実にそれだけでは無理がある。当面は自然エネルギーを増やすと、バックアップが必要になって火力発電も増えることになるからだ。
いくら陽が照っても必要な電気しか作らないような自己制御式の発電設備があればいいのだが、それでは自然エネルギーをできるだけ多く活用する趣旨からすると矛盾する。風力発電は出力抑制が可能だ。風が吹いているのに、プロペラが止まっているものを見ることがあるが、あれは点検整備を除くとそのためだ。
そうなると、自然の力を使って、たくさん発電して余った電気をためておくことができると、この問題が解消できることになる。つまり実用的で、大規模な容量をもった蓄電池である。私は、この開発にあと50年はかかるとみている。
それまでは、電気は火力、水力、原子力、その他再生可能エネルギーをうまく組み合わせて使って行くしかあるまい。ベストミックスである。
エネルギーについては、複雑な要素がからんでおり、その結果としての安定性は重大である。多分、金融危機や台風や地震よりも、はるかに影響が大きい。国民の冷静な議論を期待したい。
代表
関根健夫( 昭和30年生 )