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2016 年 8 月 13 日

ヒーローインタビューに思う - 柔道メダリストへの酷

 今まさに、リオデジャネイロ・オリンピックが行われている。日本はメダル30個が目標だという。その数が多いのか少ないのかは、私には判断できない。私が小学校3年生の時の東京オリンピックでは、日本はメダル獲得数が、金16個、銀5個、銅8個だった。ソビエト、アメリカは、確か100個近くだったので、子ども心に切ない思いをした記憶がある。あれから50年ほどが過ぎて、30個はなんとなく迫力のある数字ではない。(気がする)
 かつては、オリンピックは平和の祭典であり、参加することに意味があると言われたが、今日では勝つことに意味がある、記録を出すことに意味があるというムードだ。メダルの数の目標を公表することにどれほど意味があるのかは分からないが、総体で何個というよりも各自が実力を発揮して納得のできる試合をすること、その結果として獲得できるメダルは一つでも多いほうがよい、それだけのことだろう。私は冷めている?

 このブログは、書き始めてから、また書き終えてからアップする日まで、多少修正、推敲を加えているが、現時点では柔道競技が終わり、日本はメダルが12個だ。男子柔道は7階級すべてでメダルを取っており、それはそれで大したものだ。マスコミはメダルラッシュと表現している。
 柔道では、試合の直後に競技会場で、ヒーローインタビューが行われる。キャスターやアナウンサーが一様に「おめでとうございます」と話しかける。しかし、金メダルを取った選手も含めて皆、表情は硬い。その表情からは、嬉しさは感じられない。むしろ、悔しさがにじみ出ている。それはそうだ。特に柔道は皆、金メダルを意識していただろうからだ。

 それでもインタビューする側は、「おめでとう」「よかったですね」「日本の皆さんも応援していました」などと、本人の思いから外れた内容を繰り返す。これらのインタビューのやり取りに不自然さを感じるのは私だけか。こういったインタビューを何度もやられては、選手も酷だと思う。テレビを見ている私たちの心を打つものが、伝わってこない。
 しばらくしてから、特設スタジオでのインタビューがある。ここでは、選手も「ありがとうございます」「納得できました」「今は幸せです」ほどのコメントに変わっている。彼らも大人だから、時間が経つと自分の本音を言ってはいけないのだ、大人の対応をしなくてはいけないのだと分かって来るのだろうか。もしかしたら、誰かが答え方を指導しているのか。自分はどうあれ、応援した人に感謝することが正しいのだと。ここで波風を立てると後日スポーツ団体に寄付金が集まらないぞと。考えすぎか。

 きっと彼らは言いたいのだ。「悔しい」と。前回のオリンピックで、惨敗と言われた日本の柔道を、もう一度世界の頂点に導こうと思ってすべてをかけたであろうこの4年間を思えば、たとえ金メダルを獲得しても、他の階級が銅メダルなら嬉しくないのだろう。銀や銅のメダルの選手は「あと一歩で金メダルに届いたのに」と、言葉にならないのだと思う。きっと、彼らは黙っていたいのだろう。その思いを知ってか知らずか、本音を語らせてくれることもなく、インタビューは能天気に進んでいく。
 その極みは、レスリングの吉田選手の銀メダルだった。
 「おめでとうございます」「いい試合でした」涙を流して悔しがっている彼女に、よくもそんな言葉をかけられるものだ。アホ!

 このようなヒーローインタビューは、選手にとって時に酷な時間であろう。勝っても負けても、お決まりのように行われるそれは、必ずやらなくてはいけないものか。インタビューする側も、「悔しいでしょう」と、選手の本音をそのまま引き出してはいけないのだろうか。本音を言えないインタビューは、見ていても空しい。
 そもそも、インタビューは、時にはやらなくていいのではないかとすら思う。予定だから、視聴者が期待しているから、ということなのかもしれないが、アスリートの本音や気持ちを察し、インタビュー以外の手法で彼らの思いを伝えるのもマスコミの使命ではないか。予定をこなすのが理由でやっているのであれば、組織の粗末を感じずにはいられない。

 私にとって、忘れられないヒーローインタビューは2つである。ヤクルトの古田選手が、ある試合で活躍した時のあれだ。「いやー、すみません。プロとして、あのようなプレーをしてしまって。ごめんなさい。プロとして見せてはいけないプレーでした」と、どれほど賛辞を投げかけても反省に終始し、インタビューアーが困惑したシーンだ。
 もう一つ、ヤクルトが日本シリーズで優勝した時の若松監督の「ファンの皆さま、優勝おめでとうございます」だ。インタビューアーは、違うコメントを期待していたのだが、若松監督は、飾らずに本音を語った。彼の人柄がよく出ていた。球場のファンは一瞬あっけにとられたが、次の瞬間大いに沸いた。
 このインタビューは、聞き手のスキルの成果ではなかった。ヒーローの本音が、ファンの心に届いたのであった。

代表

関根健夫( 昭和30年生 )