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2016 年 11 月 7 日

社員への接し方 - 電通事件

 電通の若手社員が自殺したという。裁判で労働災害防止に認められたので、そのことがマスコミで取り上げられた。直前の残業時間が、月に100時間を超えていたことが原因と認定されたようだ。労働基準監督署が、電通本社、支社、関連会社を抜き打ち査察したことも、異例としてマスコミに報じられ、事態の大きさを印象付けていた。

 私も、不動産会社に勤務していた当時、大手広告代理店との取引があった。あの業界は、とにかく忙しい。
例えば、販売促進も、企画立案、プレゼンテーション、コンペから始まって、ラフ案だ、原稿作成だ、内容のチェックだ、印刷の文字校正だ、色校正だ、イベントの設営だと、とにかく業務量が半端ではない。こちらも、連日何度も担当者と連絡を取り合い、日中の業務が終わっても連絡を取ることも多い。彼らはさらにその後の業務になる。
 名古屋でつきあいのあった代理店の担当者は、当社以外にもいくつもの顧客を担当しており、日中に私の関係の仕事をしてから、夕方以降には自分が担当するウィスキー会社の製品を扱っている飲食店へ行き、飲み物をオーダーすることで売り上げに貢献し、店を3軒ほどハシゴしてから会社へ戻って、さらに深夜まで仕事をしていた。多分、この業界の残業100時間の実態は、申告しない分を含めると150時間、200時間の可能性がある。いや、間違いなく、公式な残業時間は実態とは違うだろう。
 私は当時、20歳代前半の若手社員だったので、世の中にはすごい会社があるものだ、有名一流企業の社員は大したものだと、なかば尊敬していた。

 時代が違う、といわれればそれまでのことだ。残業が正しいと言っているわけではない。今回、自殺した社員が、どんな仕事を担当していたのかは知らない。大切なことは、その仕事に納得できているかどうかだろう。残業に限らず、納得できれば仕事の見方も違うだろう。納得できない仕事は、たとえ1時間でもつらいものだ。
 つまり、彼女が自殺したのは100時間を超える残業のせいだけではなく、上司先輩の接し方の問題ではないか。報道によると徹夜して作った資料を、翌朝上司はボロクソに酷評したという。仕事の成果が上がらなかったとき、君の残業は会社にとって迷惑以外何物でもない、などとその努力を認めなかったという。優しさ、愛情、人間性を感じさせない言葉は、それ自体に悪意はなくとも、時に人の気持ちを引き裂き、時にその人の人としての尊厳を傷つけ、時に命を奪うことがある。
 このケースの社員は入社1~2年だ。仕事ぶりも、仕事の成果も、考え方も、時として未熟なことは仕方のないことだ。このケースの最大の問題は、上司の接し方、話し方にあったのではないかと思う。少なくとも、労力や努力への評価、やさしい言葉の一つもかけられなかったのだろうかと残念に思う。

 誤解を恐れずに申すなら電通事件の彼女は、東京大学卒業の美人だった。一流大学卒業、多くの人に好かれる顔立ち、だからマスコミも取り上げた。上司、先輩にも、東大卒のくせに……、こんなこともできないのか……、美人……、という偏見がなかったか。
私の知り合いに、学習院大学を卒業した人がいる。学生時代の成績も堅実で、だから有名大学に入ることができた。考え方も理路整然としている。人と意見が違ったときの言い方は未熟でも、悪意を感じさせる人間では決してない。社会に出てから有名企業に勤務した。配属は、現場を受け持っている部署だ。職場には高卒の先輩、それほど有名ではない大学を卒業した先輩もいる。年齢も職歴も彼らのほうが上だ。職場のしきたりもあるだろう。そんななかで、意見が違いや少しのミス、仕事の遅れについて、そんなこともできないのか、……のくせに、などと、職場では徹底的に糾弾を受けたという。このケースでは、幸いに相談できる上司がいて、やがて巡ってきた転勤で救われたという。

 上司、先輩の心無い発言を、最近ではパワハラなどという。ある意味で侮辱なのだが、上司、先輩にはその意図はないだろう。むしろ上司、先輩も、自分が率いるチームが一定の成果を上げなければいけないという圧力を感じているのかもしれない。しかし企業人であっても、それ以前に一人の人間だ。人としての品性をどう考えるかだ。仕事の場は、人としての品性を磨く場でありたいものだ。

代表

関根健夫( 昭和30年生 )