2018 年 6 月 25 日
悲しみは感謝に変えるしかない ― 光進丸
私がファンである加山雄三さんの船、光進丸が4月1日に火災を起こし、後に沈んだ。加山雄三さんは、子どもの頃から海が好きで、自分の船を持ちたいがゆえに俳優になったという。そうでなければ、大学卒業後会社員になるつもりで、例えばアサヒビールを受けようと思っていたと、インタビューで語っていたのを聞いたことがある。しかし、会社員では自分の船は持てそうにない。ここは親の看板を借りても芸能界に入ったほうが、その可能性があるというのでそうしたのだ。 結果として俳優デビューした氏は、東宝のスターになり、その後歌手としても有名になり、まさに日本を代表するエンタテナー、トップスターに登りつめた。
その加山さんが独自で設計し建造したのが光進丸で、今回事故にあった船は3代目だった。
氏に憧れ、その姿を追い続けて来たファンにとっては、光進丸は特別な存在だった。自分もあのような船を持てたらいいと思うが、それは事実上無理、その情熱もない、夢を見るだけ。その夢を見させてくれた光進丸、そのデッキに乗りたいがために、私は高額なツアーにも参加した。
先日、テレビ番組「徹子の部屋」に加山さんが登場した。黒柳徹子さんは加山さんと仕事以外でも親交があり、同番組にも最多出演しているゲストだからだろう、話は光進丸のことにも及んだ。
火災の原因は分からなかったらしいが、沈んだ光進丸を引き上げ港に運ぶ台船の名前が偶然にも幸神丸(こうしんまる)という船だったことで、光進丸は神のご加護によって最後を迎えられたと加山さんは語った。光進丸の様々な思いでが語られた最後に、黒柳さんが「今のお気持ちは……」と問うと、加山さんは言葉を絞り出すように言った。
「悲しみは感謝に変えるしかない」と。火災を恨むのではなく、船を持ちたいという夢が叶い、現実にそれを持てたことが何よりも幸せだった、その夢を叶えてくれて、様々な思い出をくれた光進丸には感謝しかないと。
過ぎてしまったこと、叶わなかったことを恨むのではなく、人生の一時期にそのことに夢中になれた、一所懸命になれた、そういう時間を与えてくれた、その豊かさを感じること、それは人としての幸せという以外に言葉がない。そんなことを思えるようになったのは、今の自分が幸せだからか。これはユーミンの楽曲にある概念。私も少し大人になったかな。
もう少し別のニュアンスで言うなら「あんなにしてあげたのに……」という恨みではなく「あの時、あんなに一所懸命になれたのだから……、そんな機会をくれてありがとう」である。世の中には理不尽なこともある。思うようにいかないこともある。しかし、悲しんでも恨んでも現実は元には戻らない。
過ぎていったすべてのこと、たとえ悲しいことにも感謝の気持ちを持つことを、あらためて気づかせてくれた加山さん、そして光進丸。今日まであなたに憧れ生きて来たことに感謝している。そしてこれからもファンでいたいと思う。
代表
関根健夫( 昭和30年生 )