2024 年 8 月 6 日
お言葉でございますが その9 ― お間違いございませんか
最近、あちこちで「お間違いございませんか」と聞かれる。例えば、ホテルのチェックイン時に「禁煙ルーム、2泊で承っております。お間違いございませんか」、レストランで食事を注文すると「○○と○○ですね。お間違いございませんか」などというやりとりである。
コミュニケーションは情報が常に正しく伝わるとは限らない。言い間違うこともあるし、聞き間違うこともある。係員は自分が得た情報の正誤を確認する意味で言っているわけだから会話の目的は正しい。また相手にていねいな言葉で表現しようとしている気持ちも間違ってはいない。
しかしながら、この場合の「お間違い」に「お」は要らない。敬語表現では名詞に「お」を付けると「あなたの……」というニュアンスが付く。「お荷物をお持ちしましょう」と表現すれば「あなたの荷物を持ちましょう」と違和感なく伝わるし、「お車でいらっしゃったのですか」と表現すれば「あなたの車であなた自身が運転してきたのか」とていねいに尋ねたことになる。
しかし、先ほどの例でいうと「お間違いございませんか」は、ホテル側は間違っていないが、そちらに間違いはないか、というニュアンスになる。ホテルもレストランも注文したのはこちらだ。聞き取ったのはそちらだ。間違いが生じるとすれば注文した側にもその可能性はあるが、一般的なコミュニケーションでは聞き取った側に間違いが生じる可能性のほうが高いのではないか。だから「お間違いございませんか」は慇懃無礼なのだ。インターネット経由であれば、トラブルがあるとすれば確かに発注ミスの可能性が高いが、あえてそれを指摘するかのような言い方はおかしいだろう。
ではどのような言い方、表現が好ましいか。「禁煙ルーム、2泊で承っております」というだけでもいい。そのことを前提として「手前どもの認識に間違いはございませんか」、せめて「よろしいでしょうか」、または「間違いはございませんか」と「お」を取っただけでも印象は違う。
最近は若い人を中心に敬語の使い方がていねいすぎる印象がある。アルバイトのマニュアルのせいか、ていねいな表現をしておけば失礼にならないと考えているのかとも思うが、ていねいな表現は時に酷になる。過剰な敬語は人と人との心的距離を必要以上に近づけない。多少の軋轢を犠牲にしても“今日こそはっきり言ってやろう”ということなら話は別だが、言葉のニュアンスを気にしてほしいものだ。
「お間違いございませんか」にいつもムッとする私である。
代表
関根健夫( 昭和30年生 )